人事労務

建設業の労務管理:労働者と一人親方(個人事業主)の違い

税理士 / 坂根 崇真(秋田税理士事務所)

【肩書】 秋田税理士事務所 代表税理士、㈳全国第三者承継推進協会 理事、㈱坂根ホールディングス代表取締役 【著書】 会社を立ち上げる方法と7つの注意点 相続実務のツボとコツがゼッタイにわかる本 (出版社:秀和システム) 【メディア実績】 Yahoo!ニュース、livedoor ニュース、Smart News、幻冬舎GOLD ONLINE 、現代ビジネス ほか

労働者と一人親方(個人事業主)の違い

建設業の場合、労働者(労働契約または雇用契約)と一人親方(請負契約)の法的な違いを認識しないまま作業に従事させているケースが少なくありません。両者の実態面での違いを簡潔に対比すると次のようになります。

労働者=労働(雇用)契約に基づいて働いている 一人親方=請負契約に基づいて働いている
○雇用関係にあるので、労働者は会社(雇用主)の指示に従いながら作業に従事する。

→ 作業全般において細部に渡り会社
の指示に従う
→ 開始時間や終了時間、休憩時間、
労働日等は会社の指示に従う
→ 会社の了承なしに勝手に他社の
仕事を請けられない

○請負関係にあるので、依頼された仕事
において注文者からは個別具体的な作
業手順や遂行方法に関する細かい指示
は受けずに作業に従事する。
→ 開始時間や終了時間、休憩時
間、稼働日等は本人の判断で決
められる
→ 他社の仕事であっても自由に請
けられ、また、本人の判断で補
助者を使うことも自由である
○雇用関係にあるので、賃金のベースに
なるのは会社の指揮命令下で働いた
《労働時間(例:月給〇円、時給〇円》となる。
→ 労働者の作業実績がゼロでも実際
に会社の指揮命令下で働いた以上
は賃金支払の義務が生じる
○請負関係にあるので、請負契約等に
基づいた《仕事の完成(例:一式〇円》をもって報酬が支払われる。→ 基本的に、何時間働いても依頼
した仕事が完成していなければ、
報酬支払いの義務は生じない
○雇用関係にあるので、基本的に作業で使用する機材や工具類等の購入費用は会社負担となる。
→ 会社の所有物となる
○請負関係にあるので、基本的に作業で使用する機材や工具類等の購入費用は自己負担となる。
→ 本人の所有物となる
○雇用関係にあるので、会社は仕事中に怪我をした場合、労働基準法上の補償の責めを負う。
→ 安全面・衛生面において会社が責
任を負う
→ 会社または元請が加入している労
災保険が適用される
→ 雇用保険や社会保険への加入義務
も生じる
○請負関係にあるので、注文者は仕事中に怪我をした場合、労働基準法上の補償の責めを負わない。
→ 自己責任扱いとなる→ 注文者または元請が加入してい
る労災保険は適用されない
→ 雇用保険や社会保険には加入で
きない
○雇用関係にあるので、会社側には《労働者名簿》、《賃金台帳》、《出勤簿》の作成および《月に1回以上の賃金支払い》、《健康診断》を行うことが義務付けられている。 ○請負関係にあるので、基本的には仕事を依頼する都度、本人と契約を結ぶ必要がある。なお、注文者は健康診断を行う必要はない。(日々の健康管理も自己責任)
○雇用関係にあるので、労働者への賃金は給料扱い《給与所得》となり、会社側には所得税の源泉徴収が義務付けられている。 ○請負関係にあるので、本人への報酬は外注費扱い《事業所得》となり、注文者は所得税の源泉徴収を行わない。(本人が確定申告により納付)

(参考) 社団法人 高知県建設業協会 平成16年12月

建設業関連法規に関する相談事例集 Q&A(P21)

問3-3労務のみの常傭工事は、単価契約であることが多いが、請負契約工事となるのでしょうか?

答:個人(労働者等)が事業者として契約する場合は、請負契約工事に該当します。この場合、請負工事にして、下請契約を結ばないと、労働者派遣法に違反し、労働局から、処分を受けるおそれがあります。労働者派遣法に「派遣した労働者を建設作業に従事させてはならない。」とあります。

労働者と一人親方を区別することの必要性

①元請労災の補償対象に関する当否の確認

事業主に雇用されている労働者の場合、元請企業が加入している政府労災の補償対象と
なりますが、事業主に雇用されていない一人親方(労働者には該当しないと判断された者
も含む)については補償対象外となるため、元請企業や上位会社としては労働者に該当し
ない作業員に対し、別途、一人親方特別加入への加入勧奨が必要となります。

②社会保険未加入問題への対応

国交省が制定した「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」では、協力会社の果
たすべき役割として、「労働者である社員と請負関係にある者の二者を明確に区別した上
で、労働者である社員についての保険加入手続を適切に行うこと」が挙げられており、
また元請企業に対しては協力会社の社会保険加入状況を把握し、未加入である場合には
加入勧奨を行うよう求めています。

③税務調査時における納付漏れ指摘の予防

発注元事業所に対し税務署による調査があった際、発注先である一人親方の就労実態が自社の労働者であると判断されてしまうと、本来は給与所得として給与から所得税を源泉徴収し納付しなくてはならないところを納付しておらず、また消費税についても外注費として処理していたため本来納付すべき金額よりも過少に申告していたことになり、その結果、過去の所得税および消費税プラス延滞税や加算税まで課されるおそれがあります。

参考リンク:労災保険給付不支給処分取消請求事件 最高裁判決 平成19.6.28 平成12年労第297号 労働者性関係事件 (厚生労働省労働保険審査会)

大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて(国税庁)

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【肩書】 秋田税理士事務所 代表税理士、㈳全国第三者承継推進協会 理事、㈱坂根ホールディングス代表取締役 【著書】 会社を立ち上げる方法と7つの注意点 相続実務のツボとコツがゼッタイにわかる本 (出版社:秀和システム) 【メディア実績】 Yahoo!ニュース、livedoor ニュース、Smart News、幻冬舎GOLD ONLINE 、現代ビジネス ほか

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