すごいけど、資本金1億円を超えるデメリット:新宿の税理士が解説
会社の資本金が1億円を超えた場合、明確なデメリットがあります。
この記事では、資本金が1億円を超えた場合の税務上のデメリットを、新宿の税理士 坂根が初心者向けに解説します。
資本金が1億円を超えることによるデメリットは大きく3つ
資本金が1億円を超えると、たとえば次のデメリットがあります。
<注意ポイント>
- 外形標準課税(がいけいひょうじゅんかぜい)の対象になる
- 中小法人に該当しなくなる
- 中小企業者等に該当しなくなる
簡単に言えば、資本金が1億円を超えると、支払う税金が多くなります。
1つずつ順番に解説していきます。
資本金1億円超のデメリット1:外形標準課税の対象になる
資本金が1億円を超える法人は、外形標準課税が適用されます。これは、法人税「等」のうち、法人事業税における取り扱いです。
かなりややこしい制度なので、迷ったら一冊書籍を購入されることをお勧めします。
法人税等は利益にかかる税金だが、利益が出なくても課税されるようになる
法人税等とは、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税等を総称した通称です。
法人税等は、会社が儲けた利益(所得)に対してかかる税金であり、だいたい利益の20%~30%程度かかります。
ただし例外がいくつかあり、例えば外形標準課税が適用されると、利益以外の要素に対しても税金がかかります。
外形標準課税とは?簡単に
資本金が1億円を超え、外形標準課税が適用された場合、利益以外の4つの要素について税金がかかります。
<ポイント>
- 資本金等
- 給料
- 支払利息
- 賃借料
この4つです。簡単に言えば、これらにつぎ込める経済的余裕がある場合、税金を支払う必要があるということです。
資本金(資本割)
資本金が1億円を超えて”外形標準課税”が適用される場合、会社の資本金や資本準備金などの額に応じて税金がかかります。
東京都23区のみに会社がある場合、令和2年4月1日以後開始する事業年度については、資本金等の額に対して0.525%の法人事業税がかかります。
つまり、資本金1億円の会社であれば、仮に赤字であっても最低で年間525,000円(※)の法人事業税を負担する必要があります。
※1億円×0.525% = 525,000円
付加価値割(給料・利息・賃借料)
資本金が1億円を超えて「外形標準課税」が適用される場合、会社の給料、利息の支払額、賃借料の支払額に応じて税金がかかります。
給料(報酬給与額)
資本金が1億円を超えて「外形標準課税」が適用される場合、給料の支払額に応じて税金がかかります。
ただし、給料を支払うほど税金を多く負担することになると、給料の抑制や雇用の削減を行う会社が増えてしまいます。
従って、給料については救済措置(雇用安定控除、所得拡大促進税制)があり、利息や賃借料と比べると税金への影響は少ないです。
利息(純支払利子)
資本金が1億円を超えて「外形標準課税」が適用される場合、会社が支払った利息が多ければ多いほど税金がかかります。
例えば、銀行ローンによって多額の資金調達を行っている場合、返済に伴う利息が多くなり、その分税金コストが増加します。
賃借料(純支払賃借料)
資本金が1億円を超えて「外形標準課税」が適用される場合、会社が支払った家賃や、月極駐車場などの賃料が多ければ多いほど税金がかかります。
例えば、一等地のオフィスを借りて高い賃料を支払っている場合に高い税金コストが発生します。
上記の3要素+利益に税金がかかる
資本金が1億円を超えて「外形標準課税」が適用される場合、上記の給料、利息、賃借料に、利益などを加えた金額に、令和2年4月1日以後開始する事業年度については1.26%の税金がかかります。
資本金1億円超のデメリット2:中小法人に該当せず、メリットを受けられなくなる
中小法人が大企業になると納税額が増える
資本金が1億円を超えると、法人税法上の「中小法人」に該当しなくなります。
ひとことで中小企業といっても、「従業員が〇人以下」、「売上が〇億円以下」など、中小企業の定義づけは難しく、また、法律によっても中小企業の定義が異なります。
従って、法人税における中小法人とは、資本金が1億円以下の法人と定義されています。
厳密には、資本金5億円以上の大法人の子会社でないこと等も要件とされていますが、基本的には「資本金1億円以下」であれば中小法人と考えて良いでしょう。
資本金が1億円を超えた場合、中小法人に該当しなくなるため、例えば以下のメリットが全て受けられなくなってしまいます。
1.軽減税率の特例が受けられなくなる
法人税”等”は、法人税、法人住民税、法人事業税などを総称した通称ですが、このうち法人税については、平成31年4月1日以後開始する事業年度の場合、大企業であれば23.2%かかります。
一方で、中小法人であれば15%です。利益額年800万円までという条件付きですが、利益に対して法人税は15%しかかかりません(800万円を超えた部分は23.2%)。
つまり、中小法人の場合、大企業と比べて年間最大65万円(※)の節税につながっています。
※利益 800万円×(税率 23.2% – 15%) = 656,000円
資本金が1億円を超えた場合、このメリットは受けられなくなります。
2.交際費が税務上の経費にならなくなる
交際費は、1人当たり5,000円以下などの少額なものでない限り、基本的に税務上の経費として認められません。
しかし、中小法人であれば交際費が年800万円まで税務上の経費として認められています(もちろん事業に関係がある交際費限定です)。
特に創業当初は販路拡大を行うために交際費が多くなりがちなためこのメリットは大きいですが、資本金が1億円を超えた場合、このメリットは受けられなくなります。
※大企業に該当した場合においても、一定の要件に該当する場合を除き、接待飲食費の50%を経費化できる取り扱いがあります。
3.赤字を翌年以降の黒字と相殺できる(繰越欠損金の制限)
法人税等は、1年間で獲得した利益に対してかかる税金です。
従って、例え今年赤字だったとしても、翌年黒字になったら多額の税金がかかるという原則的ルールがあります。
実際には、青色申告を行っている会社であれば、赤字を繰り越し、翌年以降の黒字と相殺して節税を行うことができます(詳細は「青色申告とは?やらないと後悔する理由を起業に強い税理士が解説」の記事をご覧ください)。
この場合、資本金1億円以下の「中小法人」であれば、赤字を翌年以降の黒字と全額ぶつけることができます。
資本金が1億円を超えたとしても、このメリットが全く受けられなくなるわけではありません。しかしし、相殺できる金額は利益の50%までという制限がかかってしまいます。
従って、大企業の場合、黒字になったら、過年度からの赤字の繰り越しがあったとしてもある程度の税金コストが発生してしまいます。
<ポイント>
大企業と中小法人では赤字の取り扱いが異なる(大企業の方が不利)
- 大企業
赤字を黒字の50%までしか相殺できない
⇒赤字100万円が出た翌年に黒字50万円が出たらトータルでは赤字50万円だが税金が発生する。外形標準課税にかかる事業税も発生する。 - 中小法人
全額相殺可能
⇒赤字100万円が出た翌年に黒字50万円が出たらトータルで赤字50万円
⇒通算赤字のため、会社維持コスト分の税金(均等割)のみかかる
資本金1億円超のデメリット3:中小企業者等の特例が受けられなくなる
資本金が1億円を超えると、「中小企業者等」のメリットも受けられなくなります。
中小企業者等の特例で代表的なものは、30万円未満の資産の即時減価償却です。資本金が1億円を超えると、この取り扱いも受けられなくなります。
なお、中小企業者等は、資本金1億円以下の法人であることが前提となっており、先ほど解説した「中小法人」と類似しています。ただし、「中小法人」と「中小企業者等」は必ずしもイコールではありません。
以下では、これらの違いをおおまかに確認していきます。
中小法人と中小企業者等の違い
中小法人とは
先ほど簡単に解説しましたが、中小法人とは、資本金1億円以下の法人のうち、資本金5億円以上の大法人の100%子会社でないこと等の要件を満たした法人のことを指します。
中小企業者等とは
中小企業者等は、資本金1億円以下の法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人に限られます。
また、資本金の額が1億円を超える法人に、発行済株式の1/2以上保有されていない等の要件がついています。
上記を見てわかる通り、中小企業者等になることは、中小法人になることより条件が若干厳しめです。ただし、それぞれ範囲が異なります。
従って、中小企業者等に該当するが中小法人には該当しない会社や、従業員数によっては、中小企業者等に該当しないが中小法人に該当するといった会社も存在するため注意が必要です。
なお、2019年(平成31年)4月1日以後に開始する事業年度においては、直前3年間の所得(利益)の年平均額が15億円を超える法人についても中小企業者等から外れる改正が行われました。
これによって、大企業並みの所得を稼いでいる会社については「中小企業者等」のメリットを受けられなくなりました。
まとめ
中小法人と中小企業者の範囲について、おおまかに比較を行うと次の通りです。
<ポイント>
- 中小法人
- 親会社:資本金5億円以上 x
- 従業員数:ー(何人いてもOK)
- 中小企業者等
- 資本金1億円超 x
- 従業員数:1,000人超 x
どちらも自社の資本金が1億円以下であることが条件ですが、親会社の資本金や従業員数によって範囲が異なります。
30万円未満の資産を即時に経費化できなくなる
即時に経費化(減価償却の特例)
中小企業者等に該当した場合、法人税の計算上ささやかなメリットが与えられています。
代表例の一つが、30万円未満の資産を購入した際の即時経費化です(参考:国税庁 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例)。
何年も使えるようなモノを固定資産と呼びますが、固定資産は何年間も使えるという理屈から、通常は購入したタイミングで経費にすることができず、数年間で経費化することになります。
ただし、中小企業者等であれば、取得価額が30万円未満の資産であり、かつ、1年間の購入額が合計300万円までであれば、全額即時に経費にすることができます。
しかし資本金が1億円を超えて中小企業者等に該当しなくなった場合、30万円未満の資産を購入しても即時の経費化はできなくなるため注意が必要です。
なお、10万円未満の少額減価償却資産、20万円未満の一括償却資産(3年で償却)は資本金が1億円を超えても使うことができます。
資本金は1億円を超えるべきか
資本金は信用力を示す指標と言われることもありますが、上記のように資本金が1億円を超えることによるデメリットもあります。
税金のみ考えるのであれば、資本金1億円に留めるという経営判断もアリです(下請法などの規制によって、1億円超にしなければならないケースはあるようですが)。
上場していても資本金1億円以下の会社はあり、また、例えば東急百貨店のような有名どころの会社であっても資本金は1億円です。
これからの時代は、資本金が大きくなくても活躍する会社はどんどん増えていくでしょう。
なお、資本金が1億円を超える会社については税金計算上の取り扱いが大きく変わるため、小さな税理士事務所では対応できない(経験が無い)ことも多いので注意が必要です。
弊社では、上場企業や上場企業の子会社など、多数の大企業の申告に携わってきた税理士が在籍しているため、創業から資本金1億円を突破した後においても引き続き対応が可能です。